上級の奉仕種族
逃げ出さなかったのはさいわいだった。そうでなければ最高気温が四十度にたっした八月のその日の午後、助手席にひとり取り残された十五歳のベティ・モーガンは、パニックが引き起こした過呼吸でもがき苦しみながら、熱中症で死んでいただろう。
救急車が呼ばれ、ベティは保護された。駆けつけた保安官に、ピックアップトラックを運転していた奴はどうしたと訊かれ、彼女はこう証言した。
雲に食われた。
上級の奉仕種族
逃げ出さなかったのはさいわいだった。そうでなければ最高気温が四十度にたっした八月のその日の午後、助手席にひとり取り残された十五歳のベティ・モーガンは、パニックが引き起こした過呼吸でもがき苦しみながら、熱中症で死んでいただろう。
救急車が呼ばれ、ベティは保護された。駆けつけた保安官に、ピックアップトラックを運転していた奴はどうしたと訊かれ、彼女はこう証言した。
雲に食われた。
上級の独立種族
見えないロープを伝ったのか、あるいは羽でも生えているのか、そいつはふわりと畳の上に降り立った。そして霊媒師の背後にまわると、相談者をじっと見下ろした。するとしばらくしてから、ピーカブーのディスプレイ上に、それまで発生したことのない変化が現れた。AIが予測して描いた奴の輪郭が、少しずつ変わっていったのだ。
背中に盛り上がっていた構造が消えていき、額と思われるあたりの突起物も縮んでいった。若干だが背丈も低くなったようだ。そしてある瞬間から、ディスプレイ上の映像がひどく乱れ始めた。奴の姿も、うまく表示されなくなってしまった。僕は仕方なくI/Oユニットを顔から外した。
そして幽霊を見ることになった。霊媒師の背後に一人の老婆の姿が、薄ぼんやりと浮かび上がっていたのだ。
唯一の存在
『都会の怪異? 行方不明の医師の部屋からナゾの肉塊』
事件の概要をかいつまむと、こんなところだ。精神科医のAさんが無断で一週間も欠勤し、不審に思った知人がマンションの管理人と共に部屋を訪れたところ――緑色の粘液に覆われた部屋の中で、大きな肉塊が不気味な笑いを浮かべたまま佇んでいた、とのことだ。饅頭を握りつぶしたような姿で、顔もどこにあるか定かでないのに、狂ったような笑い声をはっきりと出した、いびつな笑顔がはっきりと解った――と、目撃者の二人が語っているインタビューが後に続いている。
外なる神
「まずレミナ星の動きですが、相変わらず活発に動き回っています。そして信じられないのはその速度です。光速に近く…、時には光速を超えています。」
「う…、ううむ。光速を超えるなどやはり我々の宇宙物理の法則に反する。」
「奇妙なのはそれだけではありません…。レミナ星が動き回る間に周辺の星が消えているのです。」
「何だって!?」
グレート・オールド・ワン
ユノルは、天を指していた。
その指のさす先には、満月があった。
月は黒い十字の亀裂を生じ、4つに割れていた。
船員たちは皆、白い皮膜を捲り上げ、争うように中へ潜り込んでいく。皮膜の下で船員たちの膨らみが忙しげに動きまわり、例の穴から彼らの彼らの日に焼けた顔が次々と現れる。
そして、我が友や褐色の老人も、その中へ――。